個人保証と抵当権対策一覧
中小企業の経営者は、ほとんどの場合、会社の連帯保証人となっており、会社の借入について会社と同様の責任を負わされています。また、会社の本社・工場などの重要な不動産は借入の抵当に入っていることがほとんどです。
中小企業が負債を整理し、事業の再生を目指したとき、この連帯保証と抵当権の存在が大きな障壁となることがとても多いです。では、連帯保証や抵当権についてはどのように対策すればよいのでしょうか?結論を先にいえば、残念ながら連帯保証・抵当権について障壁を回避するとっておきの秘策はありません。
この2つの制度は、会社が借入を返済できなくなったときのための金融機関にとっての最後のよりどころです。金融機関も容易には連帯保証や抵当権を消滅させることを認めません。この連帯保証・抵当権にどう対処するかが、中小企業にとって債務整理・事業再生の大きなポイントとなります。
個人保証対策
金融機関との交渉
基本的には、個人の連帯保証も会社の借入と同様の方法をとります。まずは連帯保証の返済のリスケジュールや負債のカットを交渉します。もちろん連帯保証のリスケジュールやカットについても、金融機関は株主代表訴訟や有税償却の問題が生じてきますから簡単に応じてはくれません。ただ、金融機関も連帯保証債務については何がなんでも回収しようという姿勢ではありません。数億円の連帯保証債務について、毎月数万円の分割払いの合意ができた事例もありますし、個人資産を開示して、めぼしい資産がないことがわかれば、それ以上は請求してこない場合もあります。資産がなければ何もしないという方法もあるのです。
経営者に個人資産があれば、金融機関は売却して連帯保証の返済にあてることを要求してきます。そのような場合、遊休資産については素直に売却に応じて、その代わりに残額については連帯保証を外してもらう、返済のリスケジュールや負債のカットをしてもらう、サービサーへ連帯保証債権を譲渡してもらうというようなことを交渉すれば、金融機関としても債務整理に応じやすいのです。また、経営者個人に融資をしてくれるスポンサーがいれば、一時金を払って和解するという方法もあります。
破産・民事再生の利用
金融機関との交渉がまとまらない場合は、破産・民事再生の申立てを検討します。めぼしい財産がない場合は、一度破産して連帯保証をなくしてしまうことが有効です。2006年5月より、破産しても取締役への就任制限はなくなりましたので、一度登記を改める必要はありますが、取締役を辞める必要はなくなりました。しかし、破産してしまうと自宅などの個人資産は売却されてしまいます。奥さまや子どもに贈与し、不動産の名義を変更することも考えられますが、会社の業績が悪化してからこのような贈与を行うと、贈与が取り消されてしまうこともあります。このようなことを防ぐには、普段から不動産の名義を分散させておくことが有効です。
個人資産の売却を回避するためには民事再生を申し立てるという方法があります。ある程度の返済資金を用意する必要がありますが、民事再生なら会社の取締役も続けることができます。
個人の連帯保証債務についても、会社と同様にまずは金融機関と交渉を求め、合意が得られない場合には破産や民事再生を申し立てるといった二段構えの対策になっていきます。
抵当権対策
任意売却
抵当権についても、基本的には金融機関と交渉し、少しでも有利な条件で抵当権を消滅してもらえるようにお願いすることがスタートとなります。ただ、まとまったお金を用意できない場合、抵当権の消滅を金融機関が合意することはまずありません。この場合、金融機関の同意をとって知り合いに抵当権付の不動産を買い取ってもらい、売買代金を金融機関に返済することで抵当権を消滅してもらうことが考えられます(これを任意売却といいます)。
しかし、抵当権付の不動産が事業の継続に不可欠である場合、これでは事業の再生を図ることができません。このような場合には、不動産を買い受けた人からその不動産を賃貸してもらうという方法があります。売却した不動産を数年後に買い戻す約束をし(これを「買い戻しの特約」といいます)、のちに不動産を買い戻すことも可能です。不動産の価格はバブルの崩壊により大幅に下落していますから、最初に購入したときよりかなり安い金額で買い戻すことが可能です。バブル期に高額で不動産を購入し、購入資金の担保に不動産に抵当権をつけた場合、負債の残額に比べて担保価値は大きく下落しているはずです。
任意売却の実施例
たとえば、1億円を借金し、購入した不動産が現在では2,000万円の価値しかないことがあります。このような場合、金融機関と合意し、不動産を時価の2,000万円で売却し、これを金融機関に返済することによって、抵当権を消滅してもらうとともに、残りの8,000万円の負債をカットないし債権譲渡してもらい、負債を免除してもらうのです。
そして時価2,000万円の不動産を相当額で賃貸してもらい、数年後に不動産の時価2,000万円で買い戻す特約を付けておけば、1億円の負債を整理することができ、しかも2,000万円で抵当権の消滅した不動産を取得することができます。任意売却・買い戻し予約は、不動産の下落に併せて負債を減額させるための方法ということができます。
担保権消滅請求
任意売却の合意が得られない場合は、担保権消滅請求という方法を検討します。これは抵当権付の不動産を買い受けた人が抵当権を消滅することを金融機関に請求するという方法です。具体的には、債務者が第三者(債務者の知り合いなど)に抵当権付不動産を売却し、不動産を買い受けた第三者が抵当権の消滅を金融機関に対して請求します。このとき第三者は抵当権を消滅するための評価額を提示し、この金額を支払う代わりに抵当権を消滅するようにお願いします。
金融機関は、この請求を承諾するか、評価額に納得できない場合は競売を申し立てることになります。まったくの他人に競落されてしまえば、不動産を失ってしまいますから、評価額は競落価格を若干上回るような価格に設定しておく必要があります。金融機関が競売するよりも評価額によって返済を受けたほうがよいと判断すれば、抵当権の消滅が承諾され、抵当権が消滅することになります。あとは、任意売却と同様に賃貸や買い戻し特約を使って不動産の確保を行います。
この抵当権消滅請求は、2004年に施行された制度であり、以前は滌除と呼ばれていました。これまで滌除は暴力団関係者などによって濫用的に使用されてきたことから新法によって廃止されました。
担保権消滅請求の実施例
たとえば、1億円の負債があり、これに時価2,000万円の不動産に抵当権が付いていたとします。この場合、知り合いに100万円程度で売却し(抵当権付のため価格は少額で済みます)、知り合いから2,100万円の評価額を提示し担保権消滅請求をしてもらうのです(競売の場合だと売却できない危険もありますので、時価を若干上回る評価額にしておけば金融機関の承諾が得られやすいといえます)。ただ、任意売却と異なり抵当権は消滅しますが、負債自体は減額されないことに注意してください。
競売
金融機関から抵当権の実行として競売を申し立てられる場合もあります。ただ、競売は、申立てから実際に競落されて現金化するまで相当の期間がかかり(東京地方裁判所では約1年程度)、買受人が付かない、不法占拠者がいて立ち退き交渉に費用と時間が掛かってしまうなどの危険もあることから、任意売却に比べて売買価格は低額となります。そのため金融機関としても実のところは、競売はやりたくないというのが本音です。したがって、仮に借金の返済が滞っていたとしても、金融機関がすぐに競売を申し立てるようなことはまずありません。
もし、交渉がまとまらず、金融機関が競売を申し立てた場合でも対策はあります。競売を裁判所に申し立てた場合、申立後1~2ヵ月で裁判所が売却基準価額を決定します。この売却基準価額は不動産鑑定士の鑑定に基づいて公的機関が算定した金額ですから価格に合理性があります。そこで、この売却基準価額を多少上回る価格で、任意売却を交渉します。金融機関としても価格に合理性があるため社内の決裁が得られやすく交渉がまとまりやすくなります。金融機関が競売を申し立てることにより、債務者にとっては公的機関が無料で不動産を評価してくれるというメリットがあります。
以上より、抵当権については、いろいろな対策があるのですが、いずれの対策をするにせよある程度まとまった資金を供給してくれるスポンサーが必要となってきます。抵当権対策は、スポンサーを見つけることができるかどうかが特にポイントとなってきますので、まずは弁護士にご相談ください。