任意整理に応じない業者とは?もし借金していたらどうすればいい?
「任意整理なら、ローンの残った車を温存してほかの借金を減らせるみたいだ。でも、あの業者は任意整理できるのかな?」
任意整理とは、今抱えている借金について、今後発生するはずだった利息のカットや、長期の分割払いにすることで毎月の支払額を減らすことなどを目指して、個々の貸金業者と交渉する手続です。
任意整理には、返済の見込みがあれば一部の業者を手続から除外できるなど、個人再生や自己破産といった裁判所を通じて行う手続よりも柔軟な一面があります。
その反面、任意整理に業者が応じてくれないケースもあります。任意整理は、あくまで任意の「交渉」なので、業者側には交渉に応じる義務がないからです。
このページでは、任意整理に応じないことのある業者の具体例に加え、任意整理に応じてもらいにくいケースや、任意整理に応じてもらえない場合の対処法について、弁護士が解説します。
任意整理に応じない業者も一定数いる
任意整理の依頼を受けた法律事務所は、貸金業者それぞれに対して任意整理の交渉を申し入れます。
どのくらい返済の負担の軽減に応じてくれるかは、個々の業者や、借入の状況などによってさまざまです。しかし、交渉自体に応じてくれる業者は少なくありません。
これは、業者にとって、あなたが個人再生や自己破産の手続をすることで大幅に回収額が下がるよりは、任意整理の交渉に応じたほうがよい場合もあるためです。
しかし、任意整理はあくまでも交渉ごとです。裁判所が認めさえすれば業者側の意思にかかわらず、法律上、借金が減額・免除となる個人再生や自己破産とは違い、任意整理において業者には返済の条件を見直す交渉に応じる義務がありません。
そのため、決して数が多いわけではないのですが、任意整理の交渉自体にまったく応じない業者もいます。
任意整理に応じない業者の具体例
任意整理に応じない業者として有名なのは、主に次の貸金業者です。
フクホーは、債務整理をしたことがあっても借りられるケースがあるなど、融資の条件は比較的緩やかです。しかし、返済が滞ると他社以上のスピードで裁判所での手続(訴訟や支払督促)に移行する傾向があります。
日本保証、クレディア、CFJの3社は、2024年3月時点で、新規の貸付を停止しています。そのため、既存の債権については回収を厳格に行う傾向があり、任意整理には基本的に応じてくれません。
そのため、これらの業者からの借金について任意整理をすることは、基本的に困難です。
なお、上記の貸金業者以外にも、任意整理に応じてくれない業者はあります。債務整理のご相談の際に、弁護士にご確認ください。
任意整理による和解が難しいケースもある
あなたの借入先が任意整理に応じない業者ではなかったとしても、必ず任意整理ができるとは限りません。
業者が「継続的な返済が難しいのではないか」と判断しやすい特徴に当てはまっている場合、通常は任意整理に応じる業者でも慎重になるからです。
たとえば、主に以下のようなケースでは、任意整理が難しくなる場合があります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
その業者との取引期間が短い場合
たとえば、借入をしてからまだ日が浅い場合や、借入をしてから一度も返済していない場合を考えてみましょう。
このような状況で任意整理の申入れをすると、業者は「この人は、最初からきちんと返済するつもりなどなかったのではないか?」と考えることがあります。
そのため、そもそも任意整理に応じてもらえなかったり、次のような厳しい条件でしか任意整理に応じてもらえなかったりするのです。
- まとまった頭金を支払ったあと、残った金額を分割払い
- 短期間での分割払い
- 遅延損害金や将来利息のカットなし
すでに給与などの差押えが可能な段階になっている場合
業者がすでに判決などを取得していて、給与や預貯金の差押えが可能になっている場合も、任意整理に応じてもらえる可能性は非常に低くなります。
今まで返済が遅れていた人との任意整理に応じるよりも、預貯金を差し押さえたり、毎月の給与のうち一定額(※)を差し押さえ続けたりするほうが、確実にお金を回収できると考えるためです。
※借金について給与を差し押える場合、差押え可能な金額は、基本的には手取り月収の4分の1までです。ただし、手取り月収が44万円を超える場合には、33万円を超える部分すべてが差押えの対象になります。たとえば、手取り28万円だと7万円、手取り48万円だと15万円が差押えの上限となります。
借主が高齢または無職の場合
借主が高齢である場合や、無職である場合、業者は、「この人は任意整理をしても長期間支払い続けることができないかもしれない」と考えます。
そのため、任意整理に応じてもらえないケースや、頭金やごく短期間の分割払いなどの厳しい条件でしか任意整理ができないケースがあります。
業者が任意整理に応じない場合の対処法
それでは、任意整理に応じてもらえない業者が出てきた場合の対処法についてご説明します。
和解できる業者とのみ任意整理を行う
複数の業者から借入があって、そのなかに任意整理にまったく応じない業者がいる場合、任意整理に応じてくれる業者とだけ交渉することで、返済の負担を軽減できる可能性があります。
たとえば、次のAさんのケースで考えてみましょう。
【Aさんのケース】
家計から返済に回せる金額:毎月65,000円~7万円
業者 | 借入額 | 毎月の返済額 (任意整理前) |
毎月の返済額 (任意整理後) |
---|---|---|---|
X社 (60回分割・将来利息カットに応じてくれる) |
150万円 | 5万円 | 25,000円 |
Y社 (36回分割・将来利息カットに応じてくれる) |
72万円 | 4万円 | 2万円 |
Z社 (任意整理に応じてくれない) |
30万円 | 1万円 | 1万円 |
合計 | 252万円 | 10万円 | 55,000円 |
任意整理をしない場合、Aさんの毎月の返済額は合計10万円です。
しかし、X社とY社について任意整理すれば、Z社で任意整理ができなくても、毎月の返済額は55,000円まで下がる見込みがあります。
このように、任意整理に応じてくれる業者とだけでも交渉をすれば、毎月の返済額を無理のない範囲に収められる可能性があるのです。
任意整理以外の債務整理を行う
借入をしている業者のなかに任意整理にまったく応じない業者がいる場合、それ以外の業者と任意整理をしても返済の負担をあまり減らせないことがあります。
任意整理は、将来利息や遅延損害金をカットできる可能性はあっても、基本的に今ある借金は全額返す必要がある手続です。いわゆる「過払い金」という、返済しすぎたお金があるケースでない限り、返済の負担が劇的に減ることはまれだといえます。
そのため、借金総額が大きいと、任意整理をしても結局返済が行き詰まるおそれがあるのです。
このような場合、任意整理以上に返済の負担を減らせる可能性のある「個人再生」や「自己破産」を検討することとなります。
なお、個人再生と自己破産はともに裁判所を通じて行う手続で、官報に掲載される、事故情報が5~10年程度残るなどの注意点は同じです。
ただし、どちらの手続を選択すべきかは状況によって異なります。以下で詳しく見ていきましょう。
個人再生を行う
個人再生とは、大幅に減額された借金を、原則として3年間で分割して返済していく手続です。
個人再生による借金の減額幅は、借金総額や、所持している財産の価額などで変わります。しかし、任意整理以上に返済の負担を軽減できるケースが多いです(※)。
たとえば、借金総額500万円で高額な財産がない場合、個人再生によって借金が100万円まで減額される可能性があります。
すべての借金の返済義務がなくなる可能性のある自己破産ではなく、あえて個人再生を選ぶ必要があるのは、たとえば次のようなケースです。
住宅ローンのある状態で自己破産をすると、家はいずれかのタイミングで競売にかけられ、住み続けることができなくなります。しかし、個人再生で住宅ローン以外の借金を圧縮し、すべての借金を滞りなく返済できていれば、自宅を手放さずに済む可能性があるのです。
また、自己破産の手続中は、警備員や保険の外交員など一定の職種に就業できません。収入が途絶える期間が生じないようにするため、あえて個人再生を選択する場合があります。
※税金や養育費など、減額されない負債もあります。
自己破産を行う
自己破産とは、財産や収入が不足していて返済の見込みがない場合に、裁判所から免責許可決定をもらうことで、原則としてすべての借金の返済を免れる手続です(※)。
一定の財産は債権者への配当などのために手放さなければならない可能性がありますが、消費者金融や銀行などの業者からの借金については、基本的にすべて支払義務がなくなります。そのため、個人再生以上に負担を軽減できる可能性があります。
交渉に応じてくれる業者のみ任意整理したとしても、毎月の返済額を捻出できない場合には、自己破産を検討する必要があるでしょう。
※税金や養育費など、支払義務が残る負債もあります。
任意整理に応じてくれる業者は少なくない!任意整理が難しくてもほかの方法あり
任意整理にまったく応じない業者はいますが、応じてくれる業者も少なくありません。
複数の借入先がある場合、交渉に応じてくれる業者だけでも任意整理すれば、家計の負担をかなり軽減できる可能性があります。
また、任意整理をしたとしても結局返済が行き詰まってしまうおそれがある場合は、任意整理以上に返済の負担を軽減できる可能性のある「個人再生」や「自己破産」という手段もあるのです。
任意整理がよいのか、ほかの債務整理がよいのかは、抱えている借金の総額や家計の状況などによって変わります。
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このページの監修弁護士
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2010年弁護士登録。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。